原点にして頂点とは言い過ぎですが、ものすごく完成度の高い小説【竹取物語】
「へえーこの人、ショートショート以外も書いてたんだ」
と失礼なことを考えながら手に取ったのが星新一さん訳の「竹取物語」。そういえば子供のころ、絵本やまんが日本昔ばなしでかぐや姫の物語を見た記憶はありますが、本家本元の竹取物語は読んだことありませんでした。訳が星新一さんということにも興味を浸れたので、読んでみました。
基本的なストーリーは頭に入っていたこともあり、あっという間に読み終えました。
ストーリーの合間に訳者が、「ここでひと息」と補足というか合いの手を入れてくれるのが面白いです。竹に関する豆知識だったり、竹取物語の成立に関する謎だったり、当時の読者の反応を予想してみたりと、じゃまになるどころか、この古典を理解する助けとなっています。
かぐや姫から無理難題を押し付けられた5人の求婚者が、それぞれの課題にどうとりくんだのか、詳しくは知らなかったのでしれてよかったと思いました。
結局5人とも失敗し、その後ミカド(帝と表記しなかった理由は解説にかいてある)にかぐや姫が見初められるも、ミカドにもお断りをして、その後お互い文を交わす関係になります。
そして、いよいよかぐや姫が天へ帰っていくクライマックス。月とばかり思っていましたが、月とは限らないようです。
それにしても天の使者の態度の悪さときたら…。彼らに言わせると、地上は穢れ切った世界で、ここから一刻も早く立ち去りたいと言わんばかりです。かぐや姫からミカドへ文を書く時間がほしいといわれたときも、ことさらに急かします。
そして、天に帰りたくない、地上で過ごしたことを忘れたくないとかぐや姫は泣きますが、使者の持ってきた羽衣を着るとすっかりと忘れ天へ帰って言ってしまいます。
竹取の翁やミカドはかぐや姫を思って泣きますが、当のかぐや姫はもう覚えていないというのがどうにもの悲しいですね。
この竹取物語、シンプルながらとても良くできており、前例となる小説がないなかで書かれたとは思えないほどです。
また意外なことにかぐや姫が天からやってきたということ以外に、荒唐無稽なところはありません。妖怪やら怪物の類もでてきませんし、神仏の超常的な力とかもありません。
描写も非常にあっさりとしており、人物の外見や心情の描写もほとんどありません。読者の想像に委ねる部分が大きく、これが自分には合いました。
適度の謎を残しているのもいいと思います。かぐや姫は最初から自分の正体がわかっていたのか、それとも成長するに連れて徐々におもいだしたのか?そして、かぐや姫が地上に来た理由はなんなのか?どうも、天の使者の口ぶりではどうも刑罰だったようですが、具体的な罪状は明かされません。ここも読者の想像に委ねて余韻を残していると言えます。
それにしても、星新一さんの軽妙な語り口のお陰で一気に読めてしまいました。日本初の小説(と源氏物語にかいてあるそう)、一度読んでみてはいかがでしょうか?
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