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いろんな創作物の感想まとめ、毎日更新!

原点にして頂点とは言い過ぎですが、ものすごく完成度の高い小説【竹取物語】

「へえーこの人、ショートショート以外も書いてたんだ」

 

と失礼なことを考えながら手に取ったのが星新一さん訳の「竹取物語」。そういえば子供のころ、絵本やまんが日本昔ばなしかぐや姫の物語を見た記憶はありますが、本家本元の竹取物語は読んだことありませんでした。訳が星新一さんということにも興味を浸れたので、読んでみました。

 

基本的なストーリーは頭に入っていたこともあり、あっという間に読み終えました。

 

ストーリーの合間に訳者が、「ここでひと息」と補足というか合いの手を入れてくれるのが面白いです。竹に関する豆知識だったり、竹取物語の成立に関する謎だったり、当時の読者の反応を予想してみたりと、じゃまになるどころか、この古典を理解する助けとなっています。

 

かぐや姫から無理難題を押し付けられた5人の求婚者が、それぞれの課題にどうとりくんだのか、詳しくは知らなかったのでしれてよかったと思いました。

 

結局5人とも失敗し、その後ミカド(帝と表記しなかった理由は解説にかいてある)にかぐや姫が見初められるも、ミカドにもお断りをして、その後お互い文を交わす関係になります。

 

そして、いよいよかぐや姫が天へ帰っていくクライマックス。月とばかり思っていましたが、月とは限らないようです。

 

それにしても天の使者の態度の悪さときたら…。彼らに言わせると、地上は穢れ切った世界で、ここから一刻も早く立ち去りたいと言わんばかりです。かぐや姫からミカドへ文を書く時間がほしいといわれたときも、ことさらに急かします。

 

そして、天に帰りたくない、地上で過ごしたことを忘れたくないとかぐや姫は泣きますが、使者の持ってきた羽衣を着るとすっかりと忘れ天へ帰って言ってしまいます。

 

竹取の翁やミカドはかぐや姫を思って泣きますが、当のかぐや姫はもう覚えていないというのがどうにもの悲しいですね。

 

この竹取物語、シンプルながらとても良くできており、前例となる小説がないなかで書かれたとは思えないほどです。

 

また意外なことにかぐや姫が天からやってきたということ以外に、荒唐無稽なところはありません。妖怪やら怪物の類もでてきませんし、神仏の超常的な力とかもありません。

 

描写も非常にあっさりとしており、人物の外見や心情の描写もほとんどありません。読者の想像に委ねる部分が大きく、これが自分には合いました。

 

適度の謎を残しているのもいいと思います。かぐや姫は最初から自分の正体がわかっていたのか、それとも成長するに連れて徐々におもいだしたのか?そして、かぐや姫が地上に来た理由はなんなのか?どうも、天の使者の口ぶりではどうも刑罰だったようですが、具体的な罪状は明かされません。ここも読者の想像に委ねて余韻を残していると言えます。

 

それにしても、星新一さんの軽妙な語り口のお陰で一気に読めてしまいました。日本初の小説(と源氏物語にかいてあるそう)、一度読んでみてはいかがでしょうか?

 


 

 

 

 

 

 

 

原点にして頂点とは言い過ぎですが、ものすごく完成度の高い小説【竹取物語】

「へえーこの人、ショートショート以外も書いてたんだ」

 

と失礼なことを考えながら手に取ったのが星新一さん訳の「竹取物語」。そういえば子供のころ、絵本やまんが日本昔ばなしかぐや姫の物語を見た記憶はありますが、本家本元の竹取物語は読んだことありませんでした。訳が星新一さんということにも興味を浸れたので、読んでみました。

 

基本的なストーリーは頭に入っていたこともあり、あっという間に読み終えました。

 

ストーリーの合間に訳者が、「ここでひと息」と補足というか合いの手を入れてくれるのが面白いです。竹に関する豆知識だったり、竹取物語の成立に関する謎だったり、当時の読者の反応を予想してみたりと、じゃまになるどころか、この古典を理解する助けとなっています。

 

かぐや姫から無理難題を押し付けられた5人の求婚者が、それぞれの課題にどうとりくんだのか、詳しくは知らなかったのでしれてよかったと思いました。

 

結局5人とも失敗し、その後ミカド(帝と表記しなかった理由は解説にかいてある)にかぐや姫が見初められるも、ミカドにもお断りをして、その後お互い文を交わす関係になります。

 

そして、いよいよかぐや姫が天へ帰っていくクライマックス。月とばかり思っていましたが、月とは限らないようです。

 

それにしても天の使者の態度の悪さときたら…。彼らに言わせると、地上は穢れ切った世界で、ここから一刻も早く立ち去りたいと言わんばかりです。かぐや姫からミカドへ文を書く時間がほしいといわれたときも、ことさらに急かします。

 

そして、天に帰りたくない、地上で過ごしたことを忘れたくないとかぐや姫は泣きますが、使者の持ってきた羽衣を着るとすっかりと忘れ天へ帰って言ってしまいます。

 

竹取の翁やミカドはかぐや姫を思って泣きますが、当のかぐや姫はもう覚えていないというのがどうにもの悲しいですね。

 

この竹取物語、シンプルながらとても良くできており、前例となる小説がないなかで書かれたとは思えないほどです。

 

また意外なことにかぐや姫が天からやってきたということ以外に、荒唐無稽なところはありません。妖怪やら怪物の類もでてきませんし、神仏の超常的な力とかもありません。

 

描写も非常にあっさりとしており、人物の外見や心情の描写もほとんどありません。読者の想像に委ねる部分が大きく、これが自分には合いました。

 

適度の謎を残しているのもいいと思います。かぐや姫は最初から自分の正体がわかっていたのか、それとも成長するに連れて徐々におもいだしたのか?そして、かぐや姫が地上に来た理由はなんなのか?どうも、天の使者の口ぶりではどうも刑罰だったようですが、具体的な罪状は明かされません。ここも読者の想像に委ねて余韻を残していると言えます。

 

それにしても、星新一さんの軽妙な語り口のお陰で一気に読めてしまいました。日本初の小説(と源氏物語にかいてあるそう)、一度読んでみてはいかがでしょうか?

 


 

 

 

 

 

 

 

原点にして頂点とは言い過ぎですが、ものすごく完成度の高い小説【竹取物語】

「へえーこの人、ショートショート以外も書いてたんだ」

 

と失礼なことを考えながら手に取ったのが星新一さん訳の「竹取物語」。そういえば子供のころ、絵本やまんが日本昔ばなしかぐや姫の物語を見た記憶はありますが、本家本元の竹取物語は読んだことありませんでした。訳が星新一さんということにも興味を浸れたので、読んでみました。

 

基本的なストーリーは頭に入っていたこともあり、あっという間に読み終えました。

 

ストーリーの合間に訳者が、「ここでひと息」と補足というか合いの手を入れてくれるのが面白いです。竹に関する豆知識だったり、竹取物語の成立に関する謎だったり、当時の読者の反応を予想してみたりと、じゃまになるどころか、この古典を理解する助けとなっています。

 

かぐや姫から無理難題を押し付けられた5人の求婚者が、それぞれの課題にどうとりくんだのか、詳しくは知らなかったのでしれてよかったと思いました。

 

結局5人とも失敗し、その後ミカド(帝と表記しなかった理由は解説にかいてある)にかぐや姫が見初められるも、ミカドにもお断りをして、その後お互い文を交わす関係になります。

 

そして、いよいよかぐや姫が天へ帰っていくクライマックス。月とばかり思っていましたが、月とは限らないようです。

 

それにしても天の使者の態度の悪さときたら…。彼らに言わせると、地上は穢れ切った世界で、ここから一刻も早く立ち去りたいと言わんばかりです。かぐや姫からミカドへ文を書く時間がほしいといわれたときも、ことさらに急かします。

 

そして、天に帰りたくない、地上で過ごしたことを忘れたくないとかぐや姫は泣きますが、使者の持ってきた羽衣を着るとすっかりと忘れ天へ帰って言ってしまいます。

 

竹取の翁やミカドはかぐや姫を思って泣きますが、当のかぐや姫はもう覚えていないというのがどうにもの悲しいですね。

 

この竹取物語、シンプルながらとても良くできており、前例となる小説がないなかで書かれたとは思えないほどです。

 

また意外なことにかぐや姫が天からやってきたということ以外に、荒唐無稽なところはありません。妖怪やら怪物の類もでてきませんし、神仏の超常的な力とかもありません。

 

描写も非常にあっさりとしており、人物の外見や心情の描写もほとんどありません。読者の想像に委ねる部分が大きく、これが自分には合いました。

 

適度の謎を残しているのもいいと思います。かぐや姫は最初から自分の正体がわかっていたのか、それとも成長するに連れて徐々におもいだしたのか?そして、かぐや姫が地上に来た理由はなんなのか?どうも、天の使者の口ぶりではどうも刑罰だったようですが、具体的な罪状は明かされません。ここも読者の想像に委ねて余韻を残していると言えます。

 

それにしても、星新一さんの軽妙な語り口のお陰で一気に読めてしまいました。日本初の小説(と源氏物語にかいてあるそう)、一度読んでみてはいかがでしょうか?

 


 

 

 

 

 

 

 

原点にして頂点とは言い過ぎですが、ものすごく完成度の高い小説【竹取物語】

「へえーこの人、ショートショート以外も書いてたんだ」

 

と失礼なことを考えながら手に取ったのが星新一さん訳の「竹取物語」。そういえば子供のころ、絵本やまんが日本昔ばなしかぐや姫の物語を見た記憶はありますが、本家本元の竹取物語は読んだことありませんでした。訳が星新一さんということにも興味を浸れたので、読んでみました。

 

基本的なストーリーは頭に入っていたこともあり、あっという間に読み終えました。

 

ストーリーの合間に訳者が、「ここでひと息」と補足というか合いの手を入れてくれるのが面白いです。竹に関する豆知識だったり、竹取物語の成立に関する謎だったり、当時の読者の反応を予想してみたりと、じゃまになるどころか、この古典を理解する助けとなっています。

 

かぐや姫から無理難題を押し付けられた5人の求婚者が、それぞれの課題にどうとりくんだのか、詳しくは知らなかったのでしれてよかったと思いました。

 

結局5人とも失敗し、その後ミカド(帝と表記しなかった理由は解説にかいてある)にかぐや姫が見初められるも、ミカドにもお断りをして、その後お互い文を交わす関係になります。

 

そして、いよいよかぐや姫が天へ帰っていくクライマックス。月とばかり思っていましたが、月とは限らないようです。

 

それにしても天の使者の態度の悪さときたら…。彼らに言わせると、地上は穢れ切った世界で、ここから一刻も早く立ち去りたいと言わんばかりです。かぐや姫からミカドへ文を書く時間がほしいといわれたときも、ことさらに急かします。

 

そして、天に帰りたくない、地上で過ごしたことを忘れたくないとかぐや姫は泣きますが、使者の持ってきた羽衣を着るとすっかりと忘れ天へ帰って言ってしまいます。

 

竹取の翁やミカドはかぐや姫を思って泣きますが、当のかぐや姫はもう覚えていないというのがどうにもの悲しいですね。

 

この竹取物語、シンプルながらとても良くできており、前例となる小説がないなかで書かれたとは思えないほどです。

 

また意外なことにかぐや姫が天からやってきたということ以外に、荒唐無稽なところはありません。妖怪やら怪物の類もでてきませんし、神仏の超常的な力とかもありません。

 

描写も非常にあっさりとしており、人物の外見や心情の描写もほとんどありません。読者の想像に委ねる部分が大きく、これが自分には合いました。

 

適度の謎を残しているのもいいと思います。かぐや姫は最初から自分の正体がわかっていたのか、それとも成長するに連れて徐々におもいだしたのか?そして、かぐや姫が地上に来た理由はなんなのか?どうも、天の使者の口ぶりではどうも刑罰だったようですが、具体的な罪状は明かされません。ここも読者の想像に委ねて余韻を残していると言えます。

 

それにしても、星新一さんの軽妙な語り口のお陰で一気に読めてしまいました。日本初の小説(と源氏物語にかいてあるそう)、一度読んでみてはいかがでしょうか?

 


 

 

 

 

 

 

 

感動した、というより驚愕した【世界で一番透きとおった物語】

ふとYou Tubeをみていたら、ものすごく激推されていたので気になって読みました。

 

「世界で一番透きとおった物語」杉井光

 

帯にもデカデカと「ネタバレ厳禁」とかいてあります。You Tubeの動画でもストーリーのほんの触りの部分しか触れていませんでした。ネタバレを言うわけにはいかないのでとにかく騙されたと思って読んでほしいと熱心におっしゃってましたね。

 

その熱意にあてられて、本屋さんで見かけたので買って読みました。あれだけネタバレ厳禁、ネタバレ厳禁と何度も言われていて分けがわかったときは、驚愕しました。

 

この作者、マジか。こんなことよく思いついたな。思いついたとしても実際にやろうとは思わんやろ普通・・・って思いました。

 

たぶんですが、このマネをしようとする人も現れないでしょうし、この作者も二度とやらないんじゃないでしょうか。

 

とにかくすげー!っと拙い語彙で作者を称賛したくなりました。

 

一応あらすじの触りの部分だけでも紹介すると、主人公は書店に勤める青年で、母親はすでになくなっています。父親は大御所のミステリ作家ですが、母親との間には婚姻関係はなく、いわゆる愛人関係でした。主人公は父親と一度も合ったことはありませんでした。

 

その父親が亡くなり、その長男から突然連絡を受けます。父親の未発表の原稿があるかもしれないから探してほしいとの依頼でした。タイトルが「世界で一番透きとおった物語」であることしか手がかりがない中、主人公は父親の他の愛人たちに話を聞きながら、原稿の行方と本当の父親像を探っていく…。

 

これ以上書くと余計なヒントを与えそうなのでこれくらいにしておきます。

 

必ずびっくりするし、その後感動必至なので一度読まれることを強くおすすめします。

 

 


 

人に求められた役割を全うした男【討ち入りたくない内蔵助】

またまた、同じ作者さんの小説です。これで3連続ですが、松の廊下ときたら討ち入りまで行かないとね。

 

忠臣蔵とは私にとって謎でした。どうしても多々一人の老人を寄ってたかって殺してしまった、ただのテロリストにしか思えなかったからです。しかし何故か美談として語られています。どうしてだ?それにお家取り潰しの不祥事をやらかした浅野内匠頭にたいして家臣からの恨み節は聞かれなくて、吉良上野介を討つことがなき主君の無念をはらすことにつながるのか、わかりませんでした。

 

それは当時と今とではあまりにも、常識、価値観がちがいすぎるからでしょう。

 

本作は浅野内匠頭切腹の会場へ向かうところから始まります。このとき内匠頭は冷静さを取り戻しており、自分のしでかしたことを後悔していました。お家取り潰しとなって路頭に迷うであろうか心への申し訳なさもありましたが、それよりも吉良上野介を討ち果たすことができなかったことを一番に悔いているのです。

 

しかも、このときは吉良上野介への恨みの感情はすでに消え失せているのに、です。どうやら泰平の世となっても、戦うことが武士の本分であり、刀を抜いて切りかかっておきながらうち損なうとは武士の恥であり、無念である……ということのようです。書いていて私もよくわかりませんが、そういうものとして受け入れるしかないようです。

 

もう一つよくわからないのが喧嘩両成敗の原則です。刃状沙汰があれば斬りかかられた方もそれなりの理由がある「はず」ということで、切腹となるというものです。つまり斬りかかられた時点で死亡確定です。抵抗しなかったら斬り殺され、抵抗してもいづれ切腹させられます。このことは当時の武士の当然の常識であり、江戸の町人もその事は知っていました。

 

つまり誰もが「吉良上野介切腹だろう」と思っていたところ、まさかのお咎めなし。ということで赤穂浪士たちは怒り狂い、吉良邸に討ち入るのではないかと当初から予想する人も多かったようです。

 

どうして喧嘩両成敗なんてものが常識として定着したのかわかりませんが、これも当時はそうだったと受け入れるしかないでしょう。

 

さて、浅野内匠頭切腹のとき、用意された会場が大名の格式でないことに憤りとおぼえましたが、逆に皮肉を込めて丁寧にお礼の言葉を述べてから果てました。

 

さて、赤穂にいた大石内蔵助は突然の凶報に接してうろたえます。彼は本音では自分は武士にも家老にも向いていないと思っていましたが、彼の家柄が辞める事を許してくれないため、「赤穂藩筆頭家老 大石内蔵助」という仮面を被り、かろうとしての責務をなんとか果たしていました。そこへ、この凶報です。彼は「筆頭家老 大石内蔵助」として「こんなアホなことのために藩士を殺しちゃいかい」と決意します。

 

一方、他の赤穂藩士たちは「籠城して城を枕に全員討ち死」するという強硬論へ傾いていました。しかし、内蔵助はただ声の大きい意見に引っ張られているだけで、全員が同じ気持ち出ないことを見抜きます。そこで、結論を急がず冷静になるための時間を稼ごうとします。しかし、その間にも続報が入り浅野内匠頭が即日切腹になり、赤穂藩は取り潰しとなったのに吉良上野介は存命でしかも、お咎めなしとなったことがわかり、強硬論のほうが強いまま、議論は推移します。

 

筆頭家老として結論を出すよう求められた内蔵助は、城は大人しく引き渡すかわりに、収城使(城の引き渡しのための使者)の到着を待って、城門の前で全員切腹すると決めます。これは籠城すれば逆賊、しなければ臆病者(これも当時の武士にとっては大変屈辱的な言葉だったようです。今なら臆病も一種の美徳と捉える人も多いでしょうに)という地獄の2択を回避し、第3の道を示した形となります。しかも、抜けたいものは抜けてもいいといい、籠城も切腹もしたくないものために逃げ道も用意しました。これに乗る形で籠城反対を表明していた末席家老が抜け、何人かの藩士がこれに続きました。

 

それから内蔵助は城を完璧な状態で引き渡すことを宣言、徹底的な掃除と完璧な目録、帳簿の作成にと藩士たちに仕事を割り振ります。その後切腹のことは口にしなくなりました。仕事に忙殺されるうちに生への執着が生まれてくるものもおり、段々と切腹の話はなかったことになりそうな雰囲気になりました。もちろん、一部には切腹の話はどうなったのだと憤るものもいましたが、筆頭家老があれだけはっきりと宣言したことについて改めて確認も取り難く、一部のものだけで切腹しても、ただ無視されるだけで無意味ということで、本当に切腹の話は有耶無耶のうちに消えてしまいました。

 

感情論に流されて暴発しそうな人たちを落ち着かせるにはどうすればよいか、勉強になりますね。

 

これでとりあえず藩士を大量に死なせる事を回避した内蔵助は次の目標を浅野家再興に定めます。

 

城を完璧な上程で収城使に引き渡して、彼らの感心と同情を買った上でなりふり構わず泣き落とし戦術にでます。浅野内匠頭の弟・浅野大学を当主として浅野家の再興と吉良上野介の処分の再考を幕府へとりなしてほしいとりなしてほしいと訴えます。これは普通なら絶対に成功するはずがありませんが、江戸では浅野家への同情論が高まり、それにつられて浅野家に対して同情的な発言をする幕閣のでてきている、との情報を掴んでいた内蔵助は一縷の希望をみいだし、土下座、泣き落とし、土下座、泣き落としのオンパレードで彼らを追い詰めます。

 

ひょっとしてら籠城戦もあり得るかもと内心怯えていたところに、拍子抜けするほどあっさりした、そしてみごとな城の引き渡しで感心していたところに筆頭家老のなりふり構わぬ泣き落とし戦術。しかも何度も何度も……。

 

ついに気まずさに耐えきれずに収城使は「江戸に帰ったら若年寄に相談する」と言質を与えてしまいます。これでとりあえず、一縷の望みは繋がりました。

 

その後は京都山科へ居を移し、浅野家再興運動を行いつつ、江戸にいる討ち入りを強硬に主張する堀部安兵衛高田郡兵衛、奥田孫太夫らを抑えていました。

 

そこへ吉良上野介が幕府より屋敷替えを命じられて郊外へ引っ越したという知らせが入ります。これは警備のレベルが格段に下がったことを意味し、討ち入り強硬派は色めきます。

 

勝手に討ち入られては、浅野家再興運動は水の泡と消えてしまうので、内蔵助は説得のために何人か江戸へ派遣します。しかし、何故かみな逆に説得されて討ち入り派へ転向してしまいます。たまらず、自ら江戸へ赴きます。

 

先に派遣したものがみな転向してしまった理由、それは江戸の空気でした。江戸では幕府は内心、赤穂の浪士たちに吉良を討ってもらいたいのだという憶測が流れたのです。吉良の屋敷替えがその証拠だとし、今日明日にでも討ち入りがあるのではという噂でもちきりでした。しかし、一向に討ち入りが行われないので、赤穂の浪士を腰抜け呼ばわりするものも出てきている始末でした。

 

その空気のなか孤軍奮闘する内蔵助は、討ち入り派が吉良邸の図面や屋敷内の人数を掴んでいないなど討ち入りの具体的な計画が何もできていないことを痛烈に批判し、流れを変えます。堀部安兵衛が参加人数が確定していないので計画が立てられないと弁明すれば、内蔵助は10人ならこう、30人ならこう、50人ならこうと、場合分けして考えておくものだと一刀両断します。大石内蔵助、やっぱりデキる男です。

 

結局、浅野内匠頭の1周忌までは討ち入りはしないこと、それを過ぎても浅野家再興がなっていない場合は討ち入りを行うことで合意が成立します。

 

しかし、その直後に2つのニュースが自体を大きく揺さぶります。一つは吉良上野介の隠居がみとめられたこと。隠居してしまえば現役時代のことで処分を受ける可能性はなくなります。その上、江戸にいる義務もなくなるので上杉家15万石に引き取られる可能性も高くなりました。上杉家の当主が吉良上野介の実子で、養子に入って上杉家を継いでいました。その縁でいつ引き取られてもおかしくない、そうなれば討ち入りは絶望的です。

 

もう一つは討ち入り派急先鋒の一人だった高田郡兵衛の脱退です。理由は親戚の旗本の家へ養子へ入る話が持ち上がったためです。このことは討ち入り派はもちろんのこと、内蔵助にも大きな衝撃を与えました。彼は討ち入り派の結束に疑問を呈し、改めて浅野家再興の意義(死なずに済むし、みんなしあわせになれる)を強調し、討ち入りの期限を1周忌から3周忌までと大幅延長することに成功しました。

 

してやったりなはずの内蔵助でしたが、内心は荒れていました。

 

「阿呆が…。どいつもこいつも、生半可な覚悟でいい加減な事いいおって。逃げたいのなら、儂のほうがお主らの百倍も逃げ出したいわ。なんで討ち入りしたくない儂がこんなくだらん話に嫌々つきあわされてて、自分から喜んで討ち入りじゃ討ち入りじゃと吠えとった奴がホイホイ手のひら返ししとるんじゃ。ホンマ、クソすぎるやろうこんなん……」

 

更に2年も待てるわけがない討ち入り派は討ち入り派で、内蔵助を外して新たな盟主を仰いで討ち入りしようと企てます。しかし、新たな盟主など見つかるわけもなくただ無為荷解きを過ごすことになります。

 

内蔵助はこのあと、妻と離縁することになりました。内蔵助の妻は武家の娘としての教育を受けてそだったこともあり、夫に浅野家再興より討ち入りを優先するよう勧めていました。家庭内でも味方のいない内蔵助は、とうとうこのすれ違いに耐えられなくなり妻に離縁を申し渡します。しかし、妻は討ち入りを行うための身辺整理と勝手に解釈して文句も言わず、涙も見せることなく内蔵助の元を去っていきました。

 

そんな妻を見て内蔵助は「まるで『浅野家筆頭家老 大石内蔵助』という概念と結婚していたみたいではないか」と思います。

 

その後、内蔵助は心のタガが外れてしまい、郭通いを始めます。一度くらいバチは当たらんやろう、という軽い気持ちで一度言ったらやめられなくなり、連日通いだします。

そして、外聞が悪いと思った親戚連中から町人の娘を妾としてあてがわれます。相手が誰かも知らされずに来たという町人の娘・お軽に内蔵助は思いっきり甘えまくり、それでようやく心の平穏を取り戻します。何十年と「赤穂藩筆頭家老 大石内蔵助」という仮面を家にいるときですら被ったままでいた内蔵助は、ここでようやく素の大石内蔵助になれました。しかし、その素の自分が一体何をやりたいのかわからないままでした。

 

堀部安兵衛ら討ち入り強硬派としても、自体は芳しくありません。大石内蔵助を外して討ち入りを行うと決めたはいいものの、かわりの盟主も見つからず、人数も集まりません。幕府が赤穂の浪士に吉良上野介を討たせたがっているという噂が流れたため、それならば討ち入っても死なずに済むかもしれない、浅野家再興も認められるかもしれない、そうなれば再興された浅野家での序列は討ち入りに参加したか、討ち入りでどれだけ手柄を上げたかで決まるに違いない…、と憶測が憶測を呼んでいるような状況でした。そのため、堀部安兵衛主体の討ち入りなど意味はなし、元筆頭家老・大石内蔵助の目の前で手柄を上げてこそ意味があると考えるものばかりだったのです。

 

浅野家再興も討ち入りも全く話が進まないまま、時間が過ぎようとしていたとき浅野内匠頭の弟・浅野大学が広島の朝の本家での預けとするという裁定が幕府より下りました。これは大名や公家といった貴人に対する刑罰の一種であり、浅野家再興ののぞみが完全に絶たれたことを意味します。

 

藩士たちを一人も死なせないという決意の元、内蔵助してきた1年4ヶ月の苦労が水の泡と消えました。幕府は最初から浅野家を再興させるつもりがなく、ただ世間が松の廊下の事件の興味を失っていくのを待っていたのだと内蔵助は悟ります。彼の中に湧き上がってくるのは、脱力、それから諦念、そして最後に残ったのが怒りでした。

 

そして、吉良邸討ち入りを行うことを決めます。内蔵助のモチベーションとなったのは一つは幕府に対する怒り。これまで散々振り回してくれたせめてものお返しに、これ以上ないほど美しくて完璧な討ち入りを決めて、将軍綱吉に自分たちの処分のことでさんざん悩ませる。もう一つは、討ち入り強硬派への申し訳無さ。これまで散々待たせておいて「浅野家の再興はもうなくなったから、あとは勝手にせい」と突き放すのではあまりにも無責任すぎるというものです。彼は「浅野家筆頭家老 大石内蔵助」という仮面を外した素の自分が、文句を言いながらでも責任から逃げないことを臨んでいると自覚したのです。

 

内蔵助は集めた赤穂の浪士たちの前で討ち入りを宣言しました。そして、チャンスは一度きりであり失敗は許されないこと。そのために討ち入りを行うための三条件をかかげます。

 

一つは、吉良邸の間取り、家臣の人数を把握できていること。

一つは、吉良上野介が絶対に在宅していることの確認がとれること。

一つは、こちらの準備が完璧にととのっていること

 

以上、三条件を整えるべく浪士たちは動き出します。こうして長らく動かなかった討ち入り計画が動き出します。堀部安兵衛は自分たちだけでやろうとしても、全く話が進まなかったことが、大石内蔵助がトップに立った途端あっさりと動き出したことに複雑な思いをいだきますが、その気持を押し殺して討ち入り準備に邁進します。

 

その内蔵助は、全く手応えのない上に孤立無援だった浅野家再興運動と比べ、やることが明確で仲間が積極的に協力してくれる討ち入り計画に面白さを感じていました。

 

「でもこれ、人を殺して自分も死ぬ準備なんやけどな」

 

などと時折、自嘲気味にわらってみるものの計画を止めることはありませんでした。

 

そして、計画は順調に進み、いよいよ討ち入りです。吉良邸での2時間近い戦闘のあと、ついに吉良上野介を討ち取ります。上杉家からの援軍を警戒していましたが、結局それはなく、浅野内匠頭の墓がある泉岳寺にたどり着きました。そこで主君へ吉良上野介の首を捧げたあと、大人しく幕府の沙汰に従いました。

 

大石内蔵助が企図したとおり、吉良家以外の人間は誰一人害さず、火元には水をかけて立ち去るなど万に一つも火事にならないよう配慮し、ことが終わったあと、自ら大目付に報告して大人しく幕府の沙汰をまったことなど、これ以上ない美しくて完璧な討ち入りであると世間からみなされました。

 

将軍綱吉は最初、命を助けるどころか褒美を与えようとすらしました。儒学大好きな彼にとって赤穂の浪士たちは「誠にあっぱれな忠義者」だったのです。しかし、完全なイエスマンだった柳沢吉保にさえ苦言を呈され、苦悩します。幕府の法に触れた彼らを許すわけに行かない。しかし、死なせるには惜しい。彼は一ヶ月半の間苦悩し続けます。

 

一方の赤穂の浪士たちは4つの大名家に別れて預けられます。内蔵助は細川家へあずけられ、そこで大いに歓待をうけます。世話役の家臣が何人もつけられ、毎日ごちそうでもてなされます。世間での評判もきかせてくれて、「ひょっとして助かるのでは?」という希望も見えてきます。

 

そんな中、内蔵助は「余計な希望は持つな」と自らの心に言い聞かせ、迫りくる死について思いを馳せていました。彼の目論見通り、綱吉が心を悩ませていることは知りません。しかし、最後の最後で見苦しいふるまいをして赤穂の浪士の評判を落とす訳にはいかないと何度も思い返します。

 

そして、ついに切腹の沙汰がきまりました。内蔵助は「さんざん悩んで結局殺すんかい」と心のなかで悪態をつきながら、口では丁寧にお礼を述べてから脇差しを腹に当て最期のときを迎えます。

 

こうして、浅野内匠頭切腹に始まった本作は、大石内蔵助切腹で幕を閉じました。

 

結局のところ自分から求めたわけではない「浅野家筆頭家老 大石内蔵助」という役割を彼は最期まで見事に演じきりました。自分ならさっさと放り投げるのになあというのが偽らざる感想です。逃げずに最期まで演じきり、はるか後世まで語り継がれる美談の主役となれたことは本望であったのかどうかはわかりません。でも素直にかっこいいなとは思いました。自分が同じ立場なら同じことはしないでしょうが。

 

それにしても前作「あの日、松の廊下で」の主人公・梶川与惣兵衛と本作の主人公・大石内蔵助のお互いの評価の差が面白いと思います。

 

梶川与惣兵衛から見た大石内蔵助は主君の苦悩に気づくことなく、事が起こるまで放置しておいて、取り返しのつかないことが起こったあとで見当違いの凶行に及んだ無能者です。

 

大石内蔵助から見た梶川与惣兵衛は、イラン事してくれたアホです。与惣兵衛が抱きとめなければ、浅野内匠頭吉良上野介を仕留めており、討ち入りなどハナからやる必要がなかったからです。

 

この二人はお互い面識のない赤の他人です。事情を知っているか、知らないかによって

見えてくるものはだいぶ違ってくるのだなと当たり前のことながらしみじみ思います。

 

ともあれ忠臣蔵ははるか後世まで語り継がれる美談となりました。これは大石内蔵助の文字通り命をかけた一大政治プロパガンダが功を奏した結果と言えるでしょう。

 

もちろん、これは小説の中の話で、実在の大石内蔵助とはぜんぜん違うのでしょうけど、今までさっぱり分からなかった忠臣蔵の物語が少しは理解できたように思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただただ浅野内匠頭が可哀相な物語【あの日、松の廊下で】

前回の「義経じゃない方の源平合戦」と同じ作者の方の作品です。

 

ご存知、忠臣蔵での冒頭、松の廊下の事件が起こるまでを描いた小説です。

 

これがこのブログのタイトルにも書きましたが、ただただ浅野内匠頭が気の毒におもいました。もちろん、江戸城内で刃状沙汰に及んだわけですから、どんな事情があれ浅野内匠頭が悪いといえばそうなんですが、それで片付けてしまっては、あまりに酷というものでしょう。もちろん、この小説の中では、の話ですが。

 

といってもこの小説の主人公は浅野内匠頭でも、吉良上野介でもなく、梶川与惣兵衛(かじかわよそべえ)です。「殿中でござる、殿中でござる」といって浅野内匠頭を抱きとめた人です。

 

物語は主にこの与惣兵衛の視点で語られます。与惣兵衛の目からみて、浅野内匠頭吉良上野介の両名はとても立派で尊敬できる人物なのです。その三名が勅使饗応役という大事なお役目を立派に果たすため、一致協力して事に及ぶことができずに盛大にすれ違っていきます。そして、すれ違った結果生じた軋轢が、なぜか浅野内匠頭一人に降り掛かっていきます。そして、最悪のコンディションで儀式の当日を迎え、悲劇的な最期を迎えます。しかも、浅野内匠頭は自分のことでキレたわけではなく、与惣兵衛をかばった結果だというのが、また泣けます。

 

誰が一体悪いのか?あえてランキングをつけるなら、一番は将軍・徳川綱吉。次に側用人柳沢吉保。次に吉良上野介以外の指導役、赤穂藩江戸家老以下の江戸詰めの家臣たち……ということになるでしょうか?

 

吉良上野介は朝廷の礼儀作法や儀式にも通じ、公家とのパイプもしっかり持っている超ベテランでした。仕事に対する姿勢はとても厳しく、一切の妥協を許しません。下につく立場の者にとっては息が詰まりそうですが、本人は「いくら嫌われようとも構わん」という考えです。

 

その上、吉良上野介には自分と対等な同僚がいませんでした。彼は高家肝煎(こうけきもいり)の職に任じられていましたが、当初は他に2人の同僚がいました。彼らは上野介と同等の知識・経験を有しており、朝廷絡みの大事なお役目は3人でまわり持ちでこなしていました。

 

ところが、一人病死してしまったあと、幕府は後任を決めませんでした。そして、長らく高家肝煎2人体制で過ごした後、もうひとりも病死してしまいます。高齢の上野介一人残された状態で慌てて後任を任命しました。

 

そのため、高家肝煎吉良上野介が断トツの経験をもち、残り2人は実力でとおくおよばない、しかし、形の上では同格というなんとも歪な状態になってしまっていました。

 

その上、吉良上野介は将軍綱吉から密命を受けていました。それは、綱吉の母親に朝廷より特別高い官位を賜るよう工作せよ、ということ。それには吉良上野介の深い知識と交渉術、公家とのパイプ、何より莫大な工作費があってこそ可能なことでした。

 

綱吉はなぜ母親に高い官位を贈ろうとしたのか?それはただ親孝行のため。現代でたとえると総理大臣が母親への親孝行で多額の公金をつかいこんだようなもので、到底ありえることではありませんが、悲しいかな時は江戸時代。将軍様のご意向が全てです。

 

側用人柳沢吉保も、諫めるどころか即座に賛成して吉良上野介へ「金ならいくらかかってもいいから必ず実現せよ」というしまつ。結果としてこの密命が悲劇の遠因となりました。

 

一方の浅野内匠頭は下のものに対してとても寛大です。家臣をかわいがり家臣にも大いに慕われています。しかし、家臣の無能を許しすぎてしまう傾向がありました。何か問題が起きたら家臣に解決策を考える能力はなく、浅野内匠頭が率先して解決に動かないとなりません。

 

主人公の梶川与惣兵衛は、そんな二人の間を取り持ち、二人からともに味方だとおもわれます。

 

当時、毎年新年に幕府から朝廷へ年始の挨拶の使者が訪れます。その返礼として天皇の勅使が江戸を訪れ、その勅使をもてなす役目が勅使饗応役です。その大役をまかされたのが浅野内匠頭です。そして、その内匠頭に礼儀作法、儀式の所作をおしえる指導役が吉良上野介ですが、彼は先の密命のため朝廷への使者に選ばれていました。

 

そのため実際に指導するのは他の高家肝煎の人間が担当しましたが、彼らは上野介にくらべると知識経験が大きく劣っています。その上、赤穂藩からの謝礼が少ないとへそを曲げました。これは京都へ出発前だった吉良上野介が間に入ってなんとか収めましたが、しこりとして残ります。

 

指導役はやる気を無くし、ただでさえ能力に不安があるのに、指導もおざなりになります。その様子を見て不安を覚えた梶川与惣兵衛はその様子を書状にかいて吉良上野介へ知らせます。そして、ここから浅野内匠頭吉良上野介の二人の壮大なすれ違いが始まります。

 

  • 指導の進捗を事細かく報告を求められる。本来、これは指導する側とされる側双方に10日に一度京都へ書状を送ることになっていたはずが、何故か浅野内匠頭だけが送ることに。指導役と吉良上野介は形の上では同格なので、上野介も強く言えず、浅野内匠頭へのあたりが強くなる。
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  • 少しでも費用を抑えたい内匠頭は、指導役の言質をとって前年の費用より安く済ませることに成功するが、吉良上野介にひっくり返される。上野介としては密命を果たすためにも例年より費用を掛ける必要があったが、密命のため理由を説明できず、内匠頭の不信感は増大する。増えた分の費用も赤穂藩持ち。

 

  • 結局、例年より費用を掛けることになったが、江戸にいる指導役では具体的にどんな品を用意してどんな料理を手配すべきかよくわからない。吉良上野介の帰りを待っていては本番に間に合わない可能性があったので、急遽、梶川与惣兵衛が江戸に帰って来る途中の吉良上野介を捕まえて、浅野内匠頭が考えた目録を添削してもらう。与惣兵衛は合流に成功するが、目録は盛大なダメ出しをくらいその結果、浅野内匠頭赤穂藩士は品物の手配に忙殺されることになる。

 

  • 江戸に帰った吉良上野介浅野内匠頭の礼儀作法や所作が全然なってないとダメ出しをして、以後本番までマンツーマンのスパルタ特訓が始まる。浅野内匠頭としては、「ちゃんと指導どおりにしていたのに何で?」

 

  • それでもなんとか形になって、いよいよ本番2日前になって急に畳の交換が必要だと言われる。これには浅野内匠頭も大反発。実は吉良上野介が江戸に帰ったときに畳の交換は必要ないのかと確認を取っていた。このときは2ヶ月前に交換したばかりだから必要なしとの返事だった。それが土壇場でひっくり返ったのは上野介以外の指導役が「例年は畳の交換をしておりますが、今年はしなくてよいのですか?」と老中に余計なことを言ったから。上野介は保身から出た言葉と考えたようだが、内匠頭への嫌がらせの意味もありそう。何にせよ、これで内匠頭は2日間一睡もせずに本番を迎えることになる。追加の費用ももちろん赤穂藩もち。

 

  • 当然、浅野内匠頭は体調最悪で本番を迎えることになる。疲れと睡眠不足により儀式の最中にウトウトしたり、せっかく覚え直した所作を間違えたりする。幸い問題とはならなかったが、密命のことが頭にある吉良上野介は気が気でない。最終日に備え、早く帰って寝ておきたい内匠頭の前に上野介が現れる。長時間説教したあげく、明日は予定より大幅に早く登城せよと命じられる。もちろん早朝より特訓をするためだが、疲れを取ることが何より先決であるはずなのだが、不手際だったことは事実なので内匠頭は言い返せない。

 

  • 前日の二人のやり取りを偶然見ていた梶川与惣兵衛は嫌な予感がして、早朝特訓の様子をこっそり覗き見る。すると声を荒らげて浅野内匠頭の動作を直そうとしていた吉良上野介の手を内匠頭が払い除けてしまった。これは大変な失礼に当たるため上野介は激昂するが、そこへ慌てて与惣兵衛が中へ入って内匠頭をかばう。上野介としては「大事な儀式の途中で不手際をしておいて、更に特別に指導してもらっている分際で何たる無礼、疲れなど言い訳になるものか」という立場で、こちらの方が正論なのだが、憔悴しきった浅野内匠頭をずっとみていた梶川与惣兵衛としては、どうしても庇わざるを得ない。

 

  • 結局、その場は有耶無耶となり、儀式の最終日がはじまった。先程のことが納得行かない吉良上野介は松の廊下で梶川与惣兵衛を捕まえて、なぜ庇い立てしたのか厳しく問い詰める。「とてもお疲れでしたので」という梶川与惣兵衛と「疲れておればどんな無礼を働いてもいいのか」という上野介の話は平行線。そこへ運悪く極度に判断力の低下した浅野内匠頭が通りかかってしまった。彼には自分に味方してくれた与惣兵衛をあの野郎がいびり抜いているようにしか見えない。

 

こうして悲劇は起きました。綱吉は原因究明をすることなく怒りに任せて浅野内匠頭に即刻切腹を命じて死なせてしまったため、また、喧嘩両成敗の原則を外れて吉良上野介がなんのお咎めもなかったため、世間では様々な憶測がながれ、ついには討ち入りとなりました。

 

梶川与惣兵衛はなんとか尊敬できる二人の仲を取り持ち、平穏無事に儀式を終わらせるべく奔走していましたが、結局は最悪の悲劇が起きてしまいました。片や大名、片や高家肝煎の筆頭と身分にくらべて下級旗本似すぎない自分では何かと遠慮があって踏み込めなかった、そのせいでと自分をせめる日々を送ります。そんなことない、よくやったよと言ってあげたくなります。本来、そんな役目はなかったんですから。

 

なんとか事件の話を聞き出そうとする野次馬には沈黙を守り、やがて討ち入りの日を迎えます。

 

ヒーローとなった大石内蔵助も与惣兵衛に言わせると「無能の極み」です。筆頭家老なら江戸藩邸の家臣が無能なのは知っているはずなのに、助け船の一つも出さず事が起こるまでボートしておいて、主君が死んだあとで何をやっても遅い、ということです。

 

それに吉良上野介への尊敬の念もかわらないままでしたので、なおさらです。

 

それにしても、やっぱり浅野内匠頭はかわいそう過ぎる。

 

そして一番の戦犯はやはり綱吉。親孝行という個人的感情で無茶な命令を出したことが全ての元凶でしょう。そして、諫めるどころがそれを全面的に受け入れた柳沢吉保。その次に、吉良上野介の留守を何一つ守れなかったばかりか、よけいな一言で内匠頭に莫大な負担をかけた指導役。そして、主君の負担を減らすのに何一つ役に立たなかった赤穂藩江戸詰めの家臣たち。最後に吉良上野介はせめて一言でも浅野内匠頭をねぎらう言葉をかけてほしかった。一言でもあれば結果は違っていたような気がしてなりません。

 

それにしてもコミュニケーションが機能しないとどれほど恐ろしいことが起こるのやら。世間で「報・連・相。報・連・相」とやかましく言われる理由が改めてわかりました。