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「新釈走れメロス」より「山月記」

森見登美彦さんの短編集「新釈走れメロス」より「山月記」の感想です。

中島敦山月記を現代人にも読みやすいように書き直してもの…と思いきや、オリジナルの文体を完璧に真似た別のストーリーです。改作というんでしょうか?

京都を舞台に、警察官が異変を聞きつけ駆けつけた山で、天狗となった学生時代の先輩と再会します。天狗となった先輩の独白と学生時代の回想で構成されていて、これはオリジナルとおなしですね。

それにしても、この先輩がいい味を出しています。人と交わらず、留年と休学の制度を駆使して大学に居座り、卒業して社会にでていく同級生や後輩を意味もなく見下し、自分は大人物になるのだと根拠なく思い込み、いつまでも完成しない小説をかいている。

中二病をこじらせているというか、書いていた小説も誰にも見せず、忠告してくる人をかえって見下し、ただ時間を浪費して、「ひょっとして間違っていたのは自分ではないのか」と薄々気付いても起動修正できずに最後は山から降りられない天狗となってしまった彼。

最初は笑えたんですが、徐々に自分にも当てはまるところがあるのではないかと思えてきてわらえなくなる、そんな作品でした。

いや、こういうのって嫌いじゃないんですが、若干心が痛くなりました。

ところで、そんな性狷介で自らたのむところすこぶる厚い彼を、すこぶる尊敬している友人がいました。

「今でも本当に尊敬しているのはあいつだけだ。俺も他のみんなも中途半端なやつばかりさ」

といっていた友人には、果たして何が見えていたのか?ちょっとだけ気になります。

この短編集に収録されているのは、他に芥川龍之介の「藪の中」、太宰治の「走れメロス」、坂口安吾の「桜の森の満開の下」、森おう外の「百物語」の四編です。

「名作を穢すな」とお怒りになる方もおられると思います。そんな方には無理にオススメはいたしませんが、面白いと感じる方は、ぜひオリジナルと読み比べてみてはいかがでしょうか?